« 神保町の不夜城 | Main | 千代田区便り »

Jul 21, 2004

私の見たカルロス・クライバー

 ふだん,特に夜はあまりテレビを見ないので,カルロス・クライバーの死去を知ったのは,20日の朝刊でだった。

 私が見たオペラの記録は,1974年9月,バイエルン州立歌劇場初来日公演のクライバー指揮の『ばらの騎士』に始まる。(それ以前にもオペラを見たことはあったが,記録も記憶もはっきりしない。)このときは,常任のサヴァリッシュの補助という感じで,特に大きな話題になることもなかった。私は,初めて見る華麗な舞台に見とれ(あのときほど,東京文化会館の舞台が広く見えたことはない),渦のようにわき上がり波のように寄せては返すR.シュトラウスの音楽に魅惑されて,オペラとはこんなにすごいものなのかと思ったが,正直なところ,「指揮者の音楽」を意識する余裕はなかった。

 その後のカリスマ化はかなり急速だったような気がする。DGへの録音や,スカラ座のシーズン初日の『オテロ』(ドミンゴ主演)が,その大きな要因になっていると思うが,詳しい経過はわからない。

 次に見たのは,1981年9月のスカラ座来日公演の『オテロ』『ラ・ボエーム』,共にフランコ・ゼフィレッリの名舞台である。クライバーとドミンゴの音楽の奔流は,NHKホールの3階まで押し寄せた。強引なドライブだが,非常にしなやかで,ヴェルディの音楽にぴったり沿ったものだった。
 翌年の4月だったと思うが,クライバー指揮バイエルン州立劇場の『ばらの騎士』がテレビで放映されるという予告を見て,あわててビデオデッキを買いに走った。

 1986年には,バイエルン国立管弦楽団(歌劇場のオーケストラがコンサートのときにこう称した)を率いて来日,初めてステージの上のクライバーを見た。プログラムは,ひとつは『魔弾の射手』序曲,モーツァルト33番,ブラームスの2番,もうひとつはベートーヴェンの4番と7番,共に後にレーザーディスクでも見ることになる曲目である。
 アンコールは,私の行った日は両日とも『こうもり』序曲と「雷鳴と電光」。特に雷電でのはじけ具合は奔放で,空前絶後のポルカ演奏だった。
 88年9月にはスカラ座と共にやってきて,『ラ・ボエーム』を再演した。

 その次が1994年10月のウィーン国立歌劇場との『ばらの騎士』である。ウィーンではその年の春上演され,たいへん話題になった。私の友人も何人か,ウィーンへ見に出かけた。世界中からうらやましがられたのは,ウィーンでは3回の公演だったのに対し,東京では6回上演されたことである。
 このとき,私は6回のうちの最後の回のチケットを買った。果たして最後までちゃんと振ってくれるかと心配だったが,公演はすべて無事に行われた。このときは,期待が大きすぎたせいか,またクライバーが「軽み」を追求したせいか,ちょっと肩すかしを食ったような感じがした。もちろん,それはきわめて高度な次元での話で,音楽の密度と充実感は比類のないものだった。
 私の見た日は,オペラのツアー最終公演でもあったので,カーテンコールでは,ステージにオーケストラや裏方も登場し,紙吹雪が舞い,Sayonaraの看板も降臨し,やがて樽酒が運び込まれてクライバーが上機嫌で「鏡割り」を行った。そう,子どものような笑顔だった。
 クライバーは大の日本酒好きで,ミュンヘンでも日本酒を常備しているという話を聞いたことがある。

 というわけで,私はオペラ5回,コンサート2回に接することができた。これはまあ,世界的に見ても幸せな方なのだろう。ちなみに,クライバーは日本ではドタキャンをしたことはない。
 公式の来日は上記の5回がすべてだと思うが,この他に,日本酒飲みたさに来日して伊豆で日本人の女性と温泉にしけこんだというような噂もあった。
 近年は,カナリア諸島(?)で演奏したとか,ドイツの自動車工場で演奏した,といったニュースの一方で,病気の噂もあり,再び演奏に接するのは無理なのだろうなと思っていた。

 「インターネット前」に伝説の存在となった人への別れの時が訪れた。

|

« 神保町の不夜城 | Main | 千代田区便り »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23118/1021887

Listed below are links to weblogs that reference 私の見たカルロス・クライバー:

» カルロス・クライバー、逝く [CLASSICA - What's New!]
●カルロス・クライバー死去の報(Die Welt, SPIEGEL)。享年74歳。すでにずっと前から指揮台からは遠ざかっていたにもかかわらず、どこかで「クライバ... [Read More]

Tracked on Jul 21, 2004 at 11:53 PM

» Obituary ~ Carlos Kleiber [擬藤岡屋日記]
つい先日の渡辺葉子さんの訃報に接して吃驚したが、昨日はカルロス・クライバーの訃報 [Read More]

Tracked on Jul 22, 2004 at 12:15 AM

« 神保町の不夜城 | Main | 千代田区便り »