« ゲルギエフの圧縮リング | Main | ゲルギエフの圧縮リング 後半 »

Jan 26, 2006

三都物語――(8) 『ローエングリン』

◇白熱灯
 いったんホテルに戻る。途中,市庁舎前の広場でクリスマス市をやっていて,イルミネーションが美しかった。E0512_2Wien_11

 少し休み,着替えてから,トラムを乗り継いで国立歌劇場へ向かう。
 歌劇場は,昼間は雪空のもとに沈んでいたが,暗くなると共に息を吹き返し,ガラス越しに白熱灯がまばゆく輝いている。「手動」の扉を押し開けて中へ入り,暖かさにほっと息をつく。

◇バルツァ
 (6)で書いたように,今回唯一あらかじめインターネットで切符を確保してあったのが,この日の『ローエングリン』だった。Parkett(平戸間)の席で,1枚157ユーロである。
 人気のサイモン・ビシュコフ指揮,バリー・コスキー演出のこの『ローエングリン』は12月3日にプレミエになったばかりで,ウィーンではこの曲の新演出は30年ぶり。この日は最初の6回の上演の最終回だった(次は3月に4回上演される)。オルトルート役は予告ではアグネス・バルツァで,月間予定のパンフレットでも表紙を飾っていたが,当日のポスターにその名はなかった。(後で聞いたところによると,ゲネプロ直前で降板し,結局一度も出演しなかったという。)

◇スポンサー
 クロークは有料で,「定価」が表示されていた。以前は「お志」だったように思うが。平戸間なので,階段をほんの少し上がるともう客席である。E0512_2Wien_12

 ドア係からプログラムを買う。新書を細長くしたようなサイズは昔と同じだが,表紙がカラーになっていた。100ページあるが大部分ドイツ語で,あらすじのみ英語・イタリア語・フランス語・日本語で書いてある。プレミエなのに,ちゃんと実際の出演者が実際の舞台で歌っている写真が入っているのは,ドレスリハーサルのとき撮って急いで入れたのだろうか。
 なお,今シーズンの筆頭スポンサーは Lexus,つまりトヨタであり,プログラムの表紙裏は Lexus の広告だった。

◇巨漢歌手
 6時開演,ビシュコフは上着なしでチョッキのようなものを着て登場した。第1幕は暗い色彩の抽象的な舞台,現代の服装で,合唱は椅子に座っていて最初はほとんど動かず,オラトリオ状態だった。
 前の座席の背に取り付けられた液晶字幕装置(ドイツ語・英語選択可)は初体験である。画面の視野角を狭くして,他の席の字幕が気にならないようにしてあるらしい。舞台とは方向が違うので視点の移動が大きいのが難だが,文字は見やすい。

 音楽はきわめて充実していた。ビシュコフの指揮はみずみずしく,ワグナーの若さと円熟の調和点にあるこの曲の若さの方を強調しているように思った。オーケストラも非常に張り切っていて,エルザが大聖堂に歩んでいく場面など,ウィーンならではの息をのむ美しさだった。
 タイトルロールはヨハン・ボタ(Botha)という相撲取りのような体型の巨漢で,見かけによらず美しい声だった。この巨体でどんな殺陣を演じるのかと思ったら,決闘では武力でなく念力で闘っていた。エルザはイソコスキ,オルトルートはヤニア・ベクレ(と仮に書いておく;Baecleという綴り),テルラムントは日本でも何回か接したシュトゥルックマンで,いずれも高水準だった。(イソコスキは,たまたま12月のテレビで,N響のウィーン演奏会に独唱者として出ていたのを見たばかりだった。)

◇蛍光色
 演出は,一言でいうと珍妙だった。それは舞台装置が奇妙だからという要素が大きい。舞台は大部分は暗く,その中でわずかな舞台装置は黄緑色の蛍光色。白鳥は登場せず,蛍光色の鎖が人々の頭の上でヘビのように動くのみ。合唱はその後椅子からは立ったが,ほとんど動かず,婚礼の合唱はカーテンの向こうで歌われていた。新婚のベッドもなく,2人は椅子に座っていた。
 そして,最大の特徴は,エルザを盲目にしてしまったことである。これはもしかしたらいいアイディアなのかもしれない。しかし,舞台装置や照明と合わせて総合力を発揮するには至らなかった。最後の場面の弟ゴットフリートは胎児の形で半透明の袋に入ってぶらさがっていた。

◇無秩序
 休憩は2回。そういえば前のときも同じだったが,休憩が何分なのかは表示されない。終演時間は,パンフレットにもポスターにも律儀に書いてあるのだが。
 休憩の時,売店に客が無秩序に群がるのも,以前と同じである。ビールはそれほど高くないが,つまみはけっこう高かった。

 終演は10時半。盛大な拍手が続いた。プレミエのときは演出家へのブーが激しかったという。
 ラストオーダー直前のレストランに飛び込んで,遅い夕食をとった。

|

« ゲルギエフの圧縮リング | Main | ゲルギエフの圧縮リング 後半 »

Comments

コメント頂き、ありがとうございました!同じ演目を見た感想、とても楽しく読ませていただきました。バルツァが聞けなかったのは、本当に残念でしたが、それでも本当に素晴しい歌手ばかりでしたね。感動一杯でした。
ただ、解釈が私には難しくて、今月の「音楽の友」を後で読んで、ナルホド、そういう意味だったのか!と・・・笑

Posted by: mitsukoviola | Feb 05, 2006 at 09:23 PM

見ていただき,ありがとうございます。1か月半かかってやっと帰国まで書きました。「本拠地」にある昔話もご笑覧ください(http://www.ne.jp/asahi/iizuka/toshiaki/z_0mokuji.html)。

Posted by: 家主IIZUKA | Feb 08, 2006 at 10:22 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23118/8340807

Listed below are links to weblogs that reference 三都物語――(8) 『ローエングリン』:

« ゲルギエフの圧縮リング | Main | ゲルギエフの圧縮リング 後半 »