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May 03, 2008

暗譜――器楽の場合とオペラの歌詞

 指揮者は必ずしも暗譜で振らなくてもよいし,器楽のピアノ伴奏の演奏会などでも楽譜が置かれていることは多いが,オペラの歌手・合唱は必ず暗譜しなければならない。ミュンヘンの篠の風さんのブログを読んでいると,そんなあたりまえのことにあらためて気づかされる。ことに去年の『モーゼとアロン』の暗譜のことは何度も記されていた。
 器楽の独奏曲などは,それだけで完結した構成を持っているから,暗譜するのは難しくない。若いころなら,練習しているうちに自然に覚えてしまう。ちょっとした落とし穴はロンド形式のフィナーレやバロックの曲で,同じフレーズが戻ってくるたびに次にどこへ行くかで迷うことがある。
 昔,国内オーケストラの演奏会で,指揮者R氏(現在は同楽団名誉指揮者)の夫人がピアノ独奏者として登場,モーツァルトの d-moll の協奏曲を演奏したことがある。そのフィナーレの後半,ロンドのテーマが長調に変わっていくところで,ソリストが長調になるタイミングを間違えて混乱に陥り,R氏は夫人にいろいろ合図を送っていたようだが,混乱は次のトゥッティまで続いた。

 オペラでの暗譜というのはもちろん歌詞,それに演出上の動きも含めて「暗譜」する必要がある。しかも自分の歌うところは部分であり,その間や前後も頭に入れないといけないから,シーズンに登場するすべての曲を暗譜するのは大変なのだろうなと思う。
 たぶん有名な話だと思うが,1950年代ぐらいのこと,オペラの本番の途中で藤原義江が予定の動きをしないで前に出てきた。指揮者の森正はそのまま振りながら「違う,違う」と合図をするのだが,なおも出てくる。よく見ると,いや正しくはよく聞くと,藤原は森の方を見て,旋律は正しいまま「なんだっけなあ~」と歌っていたという。歌詞を忘れたのだった。プロンプターもいなかったのだろう。

 暗譜とは関係ないが,こちらは友人が実際に見た話。二期会の『ドン・ジョヴァンニ』(70年ごろ?)の大詰めで,騎士長の石像がドン・ジョヴァンニに向かって悔い改めるよう最後の警告をするところで,騎士長の故・大橋国一が「ドーン・ヴァジョーンニー」と歌ってしまい,そばにいた伊藤京子は吹き出しそうになるのを懸命にこらえていたという。

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Comments

事務所が神保町にあったので、楽しく拝見してます。
これも暗譜とは関係ありませんが、73年にウィーンフィルがアッバードと来日した時のアンコール、ほとんど暗譜状態であろう「美しく青きドナウ」(!)で、リフレインを一つ飛ばしてフルートとピッコロが「ピッ」と出てしまい、会場の空気が凍ってしまったことがありました。今は亡きコンマスのゲルハルト・ヘッツェル氏が目を丸くして、サブのライナー・キュッヘル氏などメンバーがみんなニヤニヤしながら木管の方をチラチラ見て演奏していたことを思い出しました。

Posted by: kazuM | May 03, 2008 at 02:38 PM

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