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Oct 28, 2008

ロイヤル・オペラ1979 (1)――70/80年代の外来オペラ

 79年のロイヤル・オペラ,80年のウィーン国立歌劇場,81年のスカラ座は,まことに強烈な「3連発」で,オペラというのは見る価値のあるものという観念を植え付ける決定打となった。オペラハウス側にとっても,空前の規模によるそれぞれ初の極東公演であり,並々ならぬ意欲と緊張感にあふれていた。今となっては夢のような内容の最高水準の引っ越し公演だった。
 チケットはもちろん安くはなかったが,就職して数年たったころで,しかも独身だったから,学生だった70年のベルリン・ドイツオペラのときのようにまったく手が届かない状態ではなかった。またこのころ,音楽会のパートナーがほぼ固定して,安心して2枚買うことができるようになったこともあって,個人的なタイミングとしては非常に良かった。それまでは,見栄を張ってチケットを2枚買うと,適切なパートナーを見つけるのに当日の間際まで苦労していたのである。

 第1弾のロイヤル・オペラは,1979年の9月~10月に『ピーター・グライムズ』『魔笛』『トスカ』の3本を,東京(1公演だけ横浜)で各4回,大阪で各1回上演した。自国ものとイタリアもの,ドイツのジングシュピールという絶妙の選曲で,指揮は大部分,音楽監督のコリン・デイヴィスだった(『魔笛』のみ他の指揮者の名も併記)。

 最初に行ったのは『ピーター・グライムズ』(ブリテン)。この曲の「初日」の9月19日だった(東京文化会館)。暑い日で,ピットの中では上着を脱いで演奏していたような記憶がある。デイヴィス指揮,モシンスキーの演出,ジョン・ヴィッカースがタイトルロールだった。
 真っ暗になったのになかなか指揮者が登場しないなと思ったら,突然コンコンと裁判の木槌の音がして,すぐプロローグが始まった。さびしい漁村を舞台とする暗い話で,舞台装置も非常に地味だが,音楽は密度が高く,雄弁で,多彩。酒場の場面など,にぎやかな部分も適度にある。プロローグ冒頭の旋律は後で accidental circumstances という歌詞で歌われるのだった。
 ヴィッカースは,後にカラヤン指揮の映画版『オテロ』のレーザー・ディスクで「再会」することになるが,それよりはるかにガラに合っていた。ほかに,無伴奏の合唱の透明な美しさも印象的。

 なにしろ「4つの海の間奏曲」以外何も知らず,直前に一生懸命あらすじを読むような状態で臨んだのに(当時字幕はなかった),緊密に構成された音楽と演出に圧倒され,身じろぎもせず見入ってしまった。その後30年近くたつわけだが,今も見たオペラのベスト3に入る衝撃的な上演だった。
 この日は元々1枚しか切符を買っていなかった。しかし,これは何としても後の同居人に見せなくてはと思い,10月5日の最終回に誘って当日券で見た。19日の客席には,かなりの空席があったが,同様の口コミのためか,10月5日はほぼ満席だった。

 再び『ピーター・グライムズ』に接したのは97年1月の東フィルのオペラ・コンチェルタンテのシリーズでのことで,ロイヤル・オペラの断片的ながら少なくない記憶をなつかしく思った。
  (この項続く

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Comments

 ヴィッカースの生体験があるなんて、さすが
IZH=Tさん。うらやましい。

Posted by: リンデ | Oct 28, 2008 at 08:47 AM

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