« 近藤君とゴルバチョフ | Main | 花見バス――タエちゃんと共に »

Apr 14, 2009

『宇宙創成』と野尻抱影『天体と宇宙』

 サイモン・シン『宇宙創成』(上/下)(新潮文庫)を読んだ。上下で760ページあるが,読み始めてからは早かった。同じ著者の『フェルマーの最終定理』と同様,どんどん読ませる見事なノンフィクションである。
 『フェルマー』とだいぶ違うのは,内容としては,20世紀の人物についてのエピソードを別にすれば,だいたい既知のものだったことである。それは,下巻の内容(ビッグバン理論の立証と初期宇宙の推移)については,佐藤勝彦『宇宙論入門』(岩波新書)を先ついごろ読んだからだが,上巻の内容(古代から,膨張する宇宙の発見まで)については,野尻抱影『天体と宇宙』という本を,子供のころ暗記するほど読んだためである。

 野尻抱影は,英文学者で,大仏次郎の実兄である。天文学者ではないが,星や星座の名前,伝説の収集と紹介に努めた。
 『天体と宇宙』は偕成社の「科学文庫」の1冊として1953年に出たらしいが,私が読んだのは同じ偕成社の「少年少女図説シリーズ」のものだった。月,太陽から惑星,彗星,そして恒星と星座,銀河系,他の銀河までの宇宙のメンバーが,順次紹介されていくのだが,同時に,そうした宇宙のしくみがどのように解明されていったかが,格調高い文章で述べられていた。
 今考えると,その内容はかなり高度で,視差を使って天体までの距離を測ることから始まって,星の色と温度の関係,変光星と他の銀河宇宙までの距離,分光器で得られる星のスペクトルに見られるフラウンホーファー線,そしてそれによって宇宙はものすごい速度で膨張しつつあるがわかったこと,相対性理論によれば空間には果てがあることまで,すなわち戦前の最先端の研究成果が盛り込まれていた。
 内容上特に印象に残ったのは,プトレマイオス,ケプラー,ガリレオに始まる「発見の歴史」である。特に,計算による予測通りに海王星,冥王星が発見される物語には興奮させられた。1930年に発見され,先に「降格」で話題になった冥王星(→参照)の項目では,最後のところにさりげなく,しかし少し誇らしげに「和名の冥王星は,この本の著者がその翌年提案したもので…」と記されている。(後に中国でもこの名が採用された。)
 この本を読んで,私は天体望遠鏡を買おうと貯金を始めたのだが,それはやがて,古いアルト・サックスを先輩から買うために使われることになった。

 『宇宙創成』下巻の中心をなす話題は,宇宙マイクロ波背景放射の発見である。137億年前のビッグバンから30万年後に発射され,今も地球に降り注いでいるというマイクロ波が観測され,予測された通りの波長だった。まことに壮大な発見の歴史である。
 奇しくも,今年はガリレオが望遠鏡で宇宙を見てから400年の記念の年である。

|

« 近藤君とゴルバチョフ | Main | 花見バス――タエちゃんと共に »

Comments

私も野尻抱影「天体と宇宙」(偕成社・図説文庫4・昭和29年)を暗記するほど読んだ人間の一人です。そのため私は本職の天文学者になってしまいました。当然かなりの「老人」ですが、まだ現役で天文学、特に天体分光を学生・大学院生たちとやっています。
この本はいま読み返しても十分通用する内容で、天文学は50~60年くらいでは基本的に揺るがない学問であると痛感しています。
あすは上京してライマンのオペラ「メデア」を見に行く予定です。(オペラ大好きの天文学者より)

Posted by: Kenji T | Nov 10, 2012 at 02:17 PM

Kenji T 様
コメントをいただいていたのに10日以上気付かず,たいへん失礼しました。ありがとうございます。私は,天文への興味は50歳を過ぎてから少し再燃し,素人向けの宇宙論の本をだいぶ読みましたが,『天体と宇宙』による基礎知識のおかげで,より楽しむことができるように思います。素粒子の世界と大宇宙の構造が直結して歴史が明らかになっていくドラマに興奮させられます。このブログにも書きましたが,安物の天体望遠鏡を昨年9月に買いました。

Posted by: 家主IIZUKA T | Nov 24, 2012 at 12:01 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23118/44665354

Listed below are links to weblogs that reference 『宇宙創成』と野尻抱影『天体と宇宙』:

» 「宇宙創成」(サイモン・シン著) [CLASSICA - What's New!]
●文庫になったサイモン・シンの科学ノンフィクション「宇宙創成」(新潮文庫)を読書... [Read More]

Tracked on Apr 16, 2009 at 09:53 AM

« 近藤君とゴルバチョフ | Main | 花見バス――タエちゃんと共に »