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Jun 08, 2010

思い出のチャイコの5番

 先日触れた『指揮台の神々』の中のカラヤンの項に,チャイコフスキーの交響曲第5番の録音についてのエピソードが出てきた。そこでの話題は第2楽章のホルンのソロだったが,それを読んで昔の演奏会の思い出がよみがえり,私の頭の中では第4楽章が鳴り始めた。

 はるか昔,ある老舗学生オーケストラの演奏旅行にトラ(助っ人奏者)として加わって,チャイコの5番を演奏したことがあった。なにしろ新幹線が岡山まで延長される直前で,東京を朝6時の始発で出,新大阪で在来線の特急に乗り継いで西の方へ行った。その日の内にリハーサルと本番を行い,翌日は東へ戻って,京都で演奏会を開いた。
 会場の旧京都会館は残響がないことで知られていて,野原の真ん中で演奏しているようだった。それでも本番は無事に進み,チャイコの5番の第4楽章となった。序奏では,第1楽章冒頭の旋律が長調になって帰ってくる。序奏の終わりで,主部アレグロへ向かって,ティンパニのトレモロがクレッシェンドを引っ張っていく。クレッシェンドの頂点がアレグロの始まりになるが,そこで「バキッ」というか「ドスッ」というか,聞いたことのない打撃音がした。演奏者には何か起こったのかわからなかったし,お客さんも大部分の人にはわからなかっただろう。ともかく,その後は普通に演奏は続けられた。
 演奏会が終わってから,実はあのときティンパニの皮が破けて,バチが縁に当たったのだと聞いた。温度や湿度がめまぐるしく変わる演奏旅行で,古い皮が弱っていたらしい。プラスチックの「皮」だったらあり得ない事故である。この曲のティンパニは2個で足りるように書かれているが,音程変更の手間を少なくするために1個余分に使っていた。奏者はもちろん一瞬パニックになったが,その1個が予備として役立って,結果的にはほとんど支障なく演奏できたのだった。

 ヴァイオリンの弦が演奏中に切れることはときどきあり,ヴァイオリン・セクションではその備えをしているが,それ以外の楽器に本番中に物理的な故障が生じたのは,これが唯一の経験である。
 この演奏旅行ではもうひとつ,本番中ではなかったが,1人のオーボエにひびが入ってしまうという事故があった。これも気候と湿度の変化が原因で,新しい楽器は最初の冬を越すのに注意が必要なのだが,実際には予測困難な事態である。このときオーボエは3人いて,同時には2人の出演だったので,1年生の奏者が楽器を供出してその後の本番をしのいだ。
 というわけで,思い出深いチャイコの5番である。

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