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Feb 12, 2011

音楽ミステリー2冊――『シューマンの指』『おやすみラフマニノフ』

 12月から1月にかけて,日本のクラシック系演奏家を主人公にした2冊のミステリーを読んだ。奥泉 光『シューマンの指』(講談社)と中山七里『おやすみラフマニノフ』(宝島社)である。
 『シューマンの指』は,天才ピアニストの高校時代と「現代」が重層的に語られる「幻想ミステリー」。主に扱われる音楽はシューマンの「幻想曲ハ長調」で,ほかに「子供の情景」「ピアノソナタ第2番」「アベッグ変奏曲」などが登場する。シューマンにならって「ダヴィッド同盟」を結成している主人公が,ショパンに比べて冷遇されているシューマンを正しく評価してほしい,と語る。
 最後の部分で,結末に向けていろいろな流れが合流し,クレッシェンドする。ミステリーをあまり読み慣れていない者にとっては,こういう結末もあるのか,と驚かされた。

 これに対し,『おやすみラフマニノフ』はずっと普通のミステリーで,主人公はヴァイオリンの音大生,舞台は名古屋にある音大である。普通でないのは,扱われる事件が殺人ではなく,ストラディヴァリウスの盗難,および演奏会が開催できるかという問題であるという点だ。
 音楽上の設定やオーケストラの練習のディテイルには変なところが多かった。まず,日本人の「ラフマニノフ弾きとして世界的なピアニスト」というのはまあいいとして,それがいま70歳台というのは時代錯誤だ。1950年代という設定なら少しはいいかもしれないが,現代ではこういう扱い方をされることはありえない。しかもそれが,ある時期のホロヴィッツやミケランジェリのようにめったに演奏しない「幻のピアニスト」で,自らが学長を務める音大の大学祭の演奏会に久しぶりに出演する,ということになっていたりする。
 しかしそれよりも,ラフマニノフのピアノ協奏曲の練習に,音大のオーケストラが「あと3か月しかない」といってやたらあせって練習で指揮者が怒鳴り散らしたり,たかが大学祭での演奏会への出演がプロへの登竜門だったりしているのは,まったくリアリティがない。と文句をいいながら,話はだんだんおもしろくなって,最後まで読んでしまった。

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