豆腐1丁の肉豆腐――池袋「千登利」
かれこれ20年通っている池袋西口の居酒屋「千登利」は,やきとんと肉豆腐の店である。
名物の肉豆腐は大鍋に入っていて,注文があると1丁(まるごと!)すくって皿に入れ,牛すじとたれをかけ,ネギを山盛りにして出される。中には「肉なし」という注文をする人もいるが,値段は普通のと同じだという。
やきとんはシロ,レバ,カシラ,タンハツ(タンとハツが交互に串にさしてある),ナンコツ,コブクロ。鶏関係は,鶏皮,つくね,鶏ナンコツ,ウズラの卵。野菜は,カモ(というのはネギのこと),銀杏,ニンニク,シイタケ,シシトウ。
カウンターに置かれたかごに野菜が置いてあるのは,飾りではなくて生野菜のメニューである。すなわち,キュウリ(もろきゅう),トマト,カブ,セロリ,エシャロット,この季節はショウガもある。ここでの名物はカブで,直径7,8センチの大きいものを4つに割り,味噌をそえて出てくる。このカブを食べていて,隣の人から「これ,カブですか」ときかれたことは,2度や3度ではない。「ええ,生のカブを切っただけのものなんですよ。こんなもの,ウチで食べてもうまくも何ともないと思うんですが,ここで食べると不思議とうまいんです。」などと答える。セロリも,同様に1本まるごとである。
千登利の焼酎は米酎で,アルコールはなんと35%(焼酎は普通は25%),しかも1杯が140ミリリットルある。例えばウーロン割りを頼むと,焼酎が小グラスにあふれそうに注がれ,別に氷入りグラスとウーロン茶のびんが出てくる。自分で好きな濃さに割って飲むことができる。2004年秋からホッピーが置かれるようになったのはありがたかった。
この店のトイレには,山頭火の句の入った版画が飾られている。少し冷静になって引き上げどきを考えろということだろうか。
酔ひざめのつめたい星がながれた